「スピードが速い」、「パワーがある」、「動きが柔らかい」、「スタミナが途切れない」…などなどスポーツをみていると、選手個々の身体的なストロングポイントが目に付くことがよくありますよね。
トップアスリートと言われるような選手は、こういった目にみえてわかりやすい身体的な部分でも普通の選手と比べて秀でている選手が多いと思いますが、「目にみえない部分」では、もしかしたらそれ以上の差があるのかもしれません。
今回の記事では、その目にみえない部分について触れていきたいと思います。
まずは下の画像をご覧になってみて下さい。
ネイマールの脳とスペインリーグ2部選手のMRIの比較
これはサッカーブラジル代表のスーパースター、ネイマール選手とスペインリーグ2部の選手にMRIの中でイメージトレーニングを行ってもらい、その時の脳の活動の様子を比較したものになります。
上の脳はネイマール選手、下の脳はスペインリーグ2部の選手です。
実験の内容は、両選手にMRIの中で3秒間ディフェンダーの映像を見てもらい、その後の3秒間でディフェンダーをかわしてシュートを打つイメージをしてもらうというもので、ディフェンダーの映像は3パターンあり、1つのパターンにつきそれぞれ8回、つまり計24回イメージの中でディフェンダーを抜き去ってシュートを打ってもらうというもの。
両選手とも、計24回のイメージは、それぞれ別の方法でディフェンダーを抜き去るイメージをするようにしてもらったとのことです。
24種類の違う抜き方でディフェンダーを抜く方法を次々とイメージするのは、いくらプロ選手とはいえなかなか大変そうですが、ネイマール選手は実験の直後に「簡単だった」といって具体的にどんな技を使って抜くイメージをしていたのかを説明してくれたとのこと。
「カネータ」、「エラシコ」など名前のついている技もあれば、基本的な技を数種類組み合わせて抜いていくパターンもあり、実に多様な種類の技をイメージの中で使い分けていたようです。
そんなネイマール選手の言葉を裏付けるかのように、上のイメージしてもらった時のMRI写真をみると、スペインリーグ2部の選手と比べて脳の色々な部分が使われていることがわかりますよね。
この研究を担当した脳情報通信融合研究センターマネージャーの内藤栄一氏によると、ネイマールは特に脳の高次の運動野(運動前野や補足運動野)という部分を使えていることがわかるようで、この部分が活動しているということは、よりリアルにイメージができていることを意味していて、トップアスリートになればなるほど、この運動前野や補足運動野をはじめとした脳のより広い領域を使ってイメージできている傾向にあるとのこと。
「リアルにイメージが出来る」力というのは身体的な部分と違い、第三者からみて目にみえない選手の能力ですが、このイメージする力こそが選手の練習の質や試合時のパフォーマンスの発揮にも大きく関わってくるというのは、間違いないと言えるのではないでしょうか。
またネイマールのように、24パターンの抜き去るイメージが写真をみて次々と簡単に浮かんでくるというのは、普段からイメージしている内容そのものが、恐らく基本的にポジティブな傾向にあり、成功するイメージやパターンというのを頭の中で自然と描けているのではないかということも考えられます。
『イメージする力』をチェックする方法
MRIがなくても、実際に運動イメージができているかどうかを、簡易的にチェックできるテストがあります。
そのテスト方法なのですが、指導者や練習パートナーを1人用意します。
そして自分は気をつけの姿勢をとり、目をつぶり、指導者やパートナーが読み上げる文章通りに体を動かすイメージをします。この時はイメージをするだけで実際に体は動かしません。
そして頭の中に出来上がった姿勢を、目を開けてすぐにとることが出来るかをチェックするというものです。
例えば、
① 右足を前に出す
② 上体を左へ90度ひねる
③ 首を右へ90度ひねる
④ 右腕を前から90度あげる
⑤ 左腕を左から90度あげる
と聞いて、頭の中でどのようなポーズかを描き、①〜⑤が成立した姿勢を目を開いてすぐにとることが出来るかをチェックするというものです。
他にも複合的な動きの混じったポーズをいくつか指導者、パートナーに考えてもらい、自分が目を開いてそのポーズがすぐにとれるか?というのを試してみましょう。
もしこの簡易的なテストで上手くいかなくても、リアルにイメージする力はイメージトレーニングを行うことによって高めることができます。
筋トレで意図的に筋肉に負荷をかけて成長させるように、脳は意図的に脳を使って脳を鍛える、イメージする力を養うということですね。
イメージトレーニングの種類「外的イメージ」と「内的イメージ」
頭の中で描き出すイメージというのは、その描き出すイメージの種類によって2つに大別することができます。
一つは「外的イメージ」というもので、これは自分の動きを第三者の目からみているように客観視してイメージをすること。
もう一つは「内的イメージ」というもので、これは自分の目線から見える映像を思い浮かべること。スポーツであれば、実際に自分が動いている時にみえている相手の動きやボールの動きなどをイメージすることです。
例えばボクシングにおいてのシャドーボクシングでも、鏡を見てシャドーをする場合と鏡を見ずにシャドーをする場合がありますが、鏡を見てシャドーをする場合は外的イメージトレーニングの要素に近いものがあり、鏡をみずに行うシャドーは内的イメージトレーニングの要素に近い練習と言えます。(ただこの場合は実際に体を動かしているので、純粋なイメージトレーニングとは少し異なりますが)
意図的なイメージトレーニングを行う場合は、この「外的イメージ」と「内的イメージ」の両方を描くことが重要と言われています。
外的イメージでは、自分が理想とする動きをしているところを第三者的にイメージし、内的イメージでは、実際に自分がいい動きを出来た時や上手く対人練習できた時などの過去の感覚を思い出すようにイメージするということです。
では実際にイメージトレーニングを行う手順を以下に紹介していきます。
1. 雑音のない静かなところに行く
2. イスに座る、あるいは仰向けに寝て目を閉じ、リラックスした状態を作る
3. 1~2分イメージする
4. 1~2分休憩する
5. 1~2分イメージ…1~2分休憩を繰り返す
6. イメージトレーニング終了後に自己評価や感想をメモにとる
まずは静かなところにいって目を閉じ、目と耳から入る余計な情報をシャットアウトします。集中力が途切れないように、1~2分イメージしたら休憩を入れるようにしましょう。
慣れていないうちはイメージする回数を1~2回と少なくしておき、慣れてきたらイメージする時間を3~5分と徐々に伸ばしていきます。イメージする時間は長くても30分以内で終わらせるように行います。
どのようなイメージを思い浮かべればいい?
次はどのようなイメージを思い浮かべるか?ですね。まずはイメージするのが簡単なものから始めて、慣れてきたら徐々に複雑にしていきましょう。
例えば、最初は練習やトレーニングと関係なく好きな色や風景を思い浮かべ、次は練習場やスポーツで使う道具など…手ざわりやにおい、音やそこにいるチームメイトや指導者の声まで、出来るだけ細部に渡り思い出すように鮮明にイメージします。
そして徐々に慣れてきたところで、実際にプレーしているシーンを「外的イメージ」、「内的イメージ」と区別してイメージをしていきます。
技術練習やベストプレーのイメージ、試合中や練習中の特定のシーンなどを、鮮明にイメージが描けるようにトレーニングしていきましょう。
そうすることで、実際のプレーの動きの向上を狙うだけでなく、自分のイメージしたいことをイメージできる「コントロール能力」というものを身につけていくこともイメージトレーニングの目的です。
“自分のイメージしたいことをイメージできる”というのは、変な言葉に感じるかもしれませんが、良いプレーやシーンを思い描きたいはずなのに、悪いことばかりが浮かんでしまうという経験はスポーツに限らず誰もがあるのではないかと思います。
イメージしたいことや思い浮かべたいことは案外自分の思い通りにならないものなので、それをコントロールできる能力を養っていくということですね。
イメージトレーニングを取り入れてみることを検討している方は、参考にしてみてください!
それではフィットネスジャンキーでした!